『田園の詩』 NO.2  「贅沢な菜人の話」  (1993.3.9)


 まだ私が京都で仕事をしていた頃、『贅沢な茶人の話』を耳にしました。それは全
ての道具を黄金で作ってお茶を楽しんだと言われる、あの太閤秀吉のことではあり
ません。

 その昔、中国でのこと、
 「一人の茶人がいました。その人は、まず茶の木を植えました。そして何年もかけ
て立派に育てた木から葉を摘み、自分で製茶して出来たお茶をたてて飲みました。」
という話です。茶飲み坊主の私は、その茶人の一服の贅沢さに強い羨望の念を抱
いたものでした。

 Uターンして田舎暮らしを始めた私は、こんな贅沢な生活を少しでも味わいたいと
思い、野菜作りをすることにしました。女房も私も農作業は初めてでしたが、太陽の
下で、鍬で畑を耕すことは、座り仕事の多い体には良い運動にもなりました。

     
      工房の裏の畑には、タマネギを600本植えました。(2008,2,1 写)

 何事をするにも「楽しく」をモットーにしている私達は、割と広いこの畑を≪百菜園≫
と名づけ、欲張って沢山の野菜を植えました。ただ、何分素人なので、どの野菜につ
いても種を蒔く適時を知りません。近所の人に聞いたりもしましたが、失敗も沢山あ
りました。

 そこで、食堂の壁に大きな紙を貼り、「野菜ごよみ」をつくり、全ての野菜について、
いつ種を蒔いたか、いつ収穫出来たかを小まめに記録しました。

 この五年間の記録である「野菜ごよみ」は、今、大いに役立っています。最近では、
近所のおばさんに、「ナスビの種は、いつごろ蒔くんじゃったかえー」などと、尋ねら
れるようにまでなりました。

 山奥の田舎では、電話一本で、おいしい寿司やラーメンを、すぐに届けてもらって
食べる贅沢は望めません。しかし、自分たちで育てた新鮮な無農薬野菜を、今夜の
食卓で味わうという贅沢は出来ます。ただ、これには、料理好きの女房の腕に負う
ところ大ですが。

 些細なことですが、以上、私の『贅沢な菜人の話』でした。   (住職・筆工)

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